わんちゃん・ねこちゃんの平均寿命が延び、長く一緒に過ごせるようになりましたが、その反面ガンのの腫瘍(いわゆるガン)の発生が非常に多くなってきました。ある報告では、全ての犬の23%が、特に10歳以上の犬では45%が腫瘍に関連し亡くなっているとされています。発見が遅くなれば治療が難しくなってしまったり、手遅れになってしまうこともあります。
がんは体の表面に出来るものが最も発見されやすく、飼主様自身が気付き来院されることもありますが、レントゲン検査やエコー検査、血液検査などで初めて見つかる腫瘍も多く存在します。どのような腫瘍であれ、早期発見、早期治療が重要となります。
当院では腫瘍専門認定が在籍しております。がんのお悩みに関してはお気軽にお問い合わせください。
腫瘍外来担当獣医師
原 寛 先生
日本獣医ガン研究会獣医腫瘍科認定医
経歴
平成7年 | 麻布大学獣医学科を卒業 |
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平成13年~20年 | 麻布大学獣医学部附属動物病院 腫瘍科所属 |
現在 | 全国の動物病院において腫瘍専門医として活躍中 |
こんな症状が気になったことはありませんか?
- 痩せてきた
- 以前と比べて食欲は減っていませんか?
- 元気がなくなっていませんか?
- 以前からあったしこり・できものが急に大きくなった
- お腹が膨らんでいるように見えますか?
- 口臭が以前よりもする
しこりがあったら病院に行った方がいい?
以前まではなかったはずのしこりやできものを発見してしまった場合、そんな時「ガン」を疑ってしまうかと思います。
しこりには良性のもの、悪性のもの(ガン)の2種類があります。黒や赤黒い色、紫色の腫瘍は悪性腫瘍の可能性が高いです。
ただ、しこり(腫瘤)は見た目だけでは「良性」か「悪性」か判断できません。
見つけたときはすぐに病院に行きましょう。
しこりの種類
「腫瘍」と「非腫瘍」の2種類に分けられます。
- 腫瘍とは
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「良性及び近縁疾患」もしくは「悪性(がん・肉腫)」があります。
- 非腫瘍とは
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感染症などによる炎症性疾患などがあります。
良性腫瘍と悪性腫瘍の違い
良性腫瘍 | 悪性腫瘍 | |
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発育形態 | 膨張性 | 浸潤性 |
周囲との境界 | 明白 | 不明確 |
発育速度 | 遅 | 早 |
増殖性 | 弱 | 強 |
再発性 | 弱 | 強 |
転移性 | ない | ある |
腫瘍科診療の流れ
腫瘍を発見した際、まずは『どのような腫瘍か』を判断することが重要です。
良性か、悪性か、どのような特徴をもった腫瘍なのか、進行度合などがんの治療を行うためには、多くの情報を集めることが必要です。
Flow.1腫瘍の評価
針をさし、がん細胞を採取して顕微鏡の検査を行い、どのような腫瘍なのかをまずは判断します。
Flow.2リンパ節の評価
良性の腫瘍と異なり、悪性の腫瘍は転移します。
発生元の近くのリンパ節に転移することが多いため、リンパ節の状況を確認します。
これを行うことで今後の治療方法が変わってきます。
Flow.3腫瘍の広がりを評価
腫瘍がもし、転移がなければ、手術で取り除き根治治療を目指しますが、
全身に転移している場合、手術で患部のみを切除しても効果が不十分です。
そのため、レントゲン検査を行い、肺への腫瘍の転移状況を確認します。
Flow.4健康状態の確認
腫瘍の治療を行うにあたって、治療ができる健康状態かを確認します。
他の病気が見つかった場合は、腫瘍より先にその病気の治療を行う場合もあります。
当院でのしこりの検査方法
細胞診検査
腫瘍が疑われる箇所の細胞を検査するために、細い注射針で患部の細胞を採取し、顕微鏡で細胞の形態を検査します。
腫瘍の悪性腫瘍か良性腫瘍か腫瘍細胞のおおまかな分類を明らかにします。ワンちゃん、猫ちゃんへの身体による負担は比較的少ないため、腫瘍が疑われるときは最初に行われることの多い検査です。
病理検査
病理検査とは、腫瘍の全体、もしくは一部を切除して、組織の細胞の見た目や広がり方などから腫瘍の種類を判断するものです。
基本的には専門の検査会社へ依頼するため、診断がつくまでに7〜10日ほどのお時間がかかります。
レントゲン検査
身体のどこに腫瘍があるのか、腫瘍が他の臓器に転移していないかどうかを探すための検査です。麻酔は必要ないため、ワンちゃん、猫ちゃんへの負担は少なく済みますが、レントゲン検査だけでは十分な情報を得ることはできません。
当院の治療
当院の腫瘍に対する治療法は、主に「外科治療」「抗がん剤治療」の2つが中心です。
腫瘍の種類や発生部位などにより、適応する治療法が異なります。
また、状況によりこれらを併用する場合もあります。
外科治療
切除によって腫瘍を取り除きます。
抗がん剤治療
白血病、リンパ腫などの血液由来の腫瘍では、抗がん剤治療が主軸となります。
また、手術後に補助治療として用います。
副作用として骨髄抑制、嘔吐、下痢などの症状が見られることもあります。
緩和治療
高齢で持病がある、腫瘍が転移してしまっているなどの理由で根治治療が難しい場合、腫瘍によって引き起こされる様々な症状を、点滴治療、サプリメント、栄養補給、痛み止めなどを用いて和らげてあげる治療です。
腫瘍から考えられる病気
犬・猫の腫瘍
良性腫瘍
脂肪腫
症状:脂肪の塊で、やわらかいのが特徴のしこり。
皮脂腺腫
症状:皮脂腺が異常に増殖することでできるしこり。
マイボーム腺腫
症状:まぶたにできる腫瘍で、いわゆるものもらいのこと。
乳頭腫
症状:口腔内などの粘膜や皮膚にブロッコリー状にできるできもの。
基本的に良性だが、悪性化すると扁平上皮癌になる可能性もある。
悪性腫瘍~皮膚に出来る腫瘍
肥満細胞腫
症状:肥満細胞ががん化したもので、皮膚以外には肝臓や脾臓にもできる。
扁平上皮癌
症状:皮膚の一番表面にある扁平上皮細胞ががん化するもの。
黒色腫(メラノーマ)
症状:皮膚組織にできる腫瘍で、指や口腔、眼球にできるものは悪性の可能性が高い。
乳癌
症状:乳腺周囲にしこりができる。
避妊手術をしていない高齢犬・猫のメスに多く見られる。
血液の腫瘍
リンパ腫
症状:膝裏・顎・脇の下・内股などの体表のリンパ節が腫れると触ることができるが、内臓に出来る場合もある。
骨の腫瘍
骨肉腫
症状:犬に最も多く発生する骨の腫瘍。初期症状がなく次第に足の腫れ・激しい痛みなどが伴う。
筋肉の腫瘍
線維肉腫
症状:体のあらゆる部分に出来る可能性があり、硬いしこりの場合が多い。
内臓の腫瘍
胃腫瘍
症状:長期間の食欲不振や嘔吐があり、体重の減少がある。
小腸腫瘍
症状:食欲不振や嘔吐、下痢、体重の減少があるため、感染症胃腸炎との判別が難しくなっている。
大腸腫瘍
症状:食欲不振や長期間の血便や便秘などの症状があり、便の形が平たくなることが多く見られる。
肛門周囲腺腫
症状:鮮血便や便秘などの症状があり、肛門周辺にできものができるため、すぐに発見しやすく、去勢手術をしていない高齢犬に多い。
肝臓腫瘍
症状:元気がなくなったり、食欲不振や嘔吐があり、血液検査で肝酵素の上昇が見られることが多い。
脾臓腫瘍
症状:初期症状は無症状のため発見が遅れてしまうことが多い。巨大化した脾臓のできものが破裂することで大出血し、 貧血を起こしたり急にぐったりすることがある。
腎臓腫瘍
症状:元気がなくなったり、食欲不振や血尿、お腹が張るなどの症状がある。
副腎腫瘍
症状:多飲多尿や多食、疲れやすかったり、脱毛などの症状がある。
膀胱尿道腫瘍
症状:元気がなくなったり、食欲不振や膀胱炎、血尿などの症状がある。
しこりを見つけたら確認すること
しこりを見つけたら獣医にスムーズに説明ができるように以下のことをメモしましょう。
- しこりを見つけたのはいつごろか?
- しこりの数はいくつか?
- 痛みや痒みはないか?
- 他の症状は出ていないか?
しこりの予防法
しこりを予防することはとても難しいです。
ですが、日ごろからわんちゃん・ねこちゃんとスキンシップを取ることでいち早くしこりに気付き、早期発見・早期治療をすることができます。
- 日ごろからスキンシップを取り、全身を触らせてくれるようにしておきましょう。
- 首⇒肩⇒背中⇒胸⇒お腹と順番にゆっくりと触れる範囲を広げていきましょう。
- スキンシップだけでなく、元気や食欲、トイレなどわんちゃん・ねこちゃんの変化に気付けるように日ごろから意識して過ごしましょう。
腫瘍科専門外来日はこちら
腫瘍の症例
ネコちゃん腫瘍
2022.01.17
17歳猫
食欲、元気あり。
昨年内股部右側皮膚に腫瘤が形成されたとご来院。表層が自潰しており針生検で円形核、大小不同、核小体がみとめられた。
腫瘤摘出手術
朝一ご来院にて、血液検査等終了後、手術の準備に入り、摘出。
腫瘤は赤色を呈していたが摘出後血液成分が流出し、赤味が消失。下織に固着などは認められませんでした。
術後は麻酔の覚めも良好。元気もあり、当日16:00過ぎに退院されました。摘出後、腫瘤は病理検査に出し結果報告待ちです。
プッチちゃん消化器型悪性リンパ肉腫
腸に腫瘤ができ、摘出手術。術後、転移を抑えるため抗がん剤を使用。(飲み薬、注射)
静脈注射は、2~4週目は、1週間に1回。7週目は、10週目に実施。以後3週おきに実施。定期的に血液検査を行っています。
プレドニゾロンは、1週目は毎日投与。2週目以降は1日おき1錠投与。
エンドキサンは、1週目、4週目、7週目、10週目投与。以後3週おき投与。
トイプードル副腎腫瘍
トイ・ プードル 去勢済みオス11歳
キャミック(動物専門のCT、MRI 検査機関)にて CT検査で副腎領域に腫瘤を認められました。
腫瘍専門医 原先生とともに手術を実施。右側副腎部腫瘤及び不正形凹凸のある腫大した脾臓を確認。右側副腎部腫瘤摘出及び脾臓摘出を実施しました。
病理検査にて副腎皮質腺癌及び脾臓うっ血との確定診断が出ました。
副腎腫瘍摘出の後は具合が悪くなる場合があり、術後の管理が大事になリます。この子の場合は、元気、食欲が低下することもなく、元気に退院できました。